2010年06月10日

用務員だより 6-2

(■http://wakatake.ti-da.net/ よりつづく)

ある一人の若者が、荒れ放題に見捨てられた
自分の住むマンションの小さな庭園を耕し、
そして、そこに花を植えた。

朝になって、忽然と蘇った庭園にマンションの住人は驚いた。
やがてだれ彼となく花に水を与え始めた。
その光景に今度は若者自身が驚いた。

それから若者は近くの街路の庭園を蘇らせた。
やがて付近の住民がまたそれに水をかけ始めた。
そして更に次の庭園を蘇らせた。
また住民が水をかけ始めた。
こうして生まれ変わった庭園が、
街のあちこちに出現していった。

庭園に水をかけている人に、
「あなたが花を植えたのですか?」
「いいえ、朝起きたらビックリしました。
 昨日までは放っておかれ荒れ放題だったのが
 ご覧の通りだ。誰がやったんだろうね~」

朝になると次々と生まれ変わって現れる街路庭園。
若者の庭園作りはいつも人が寝静まってから。
人気のない真夜中に。水をかけるのも真夜中に。
影のように現れては、影のように去っていく。

やがて噂が立ち始めた。
そして人々は、得体の知れない若者のことを
「ナイト・ゲリラ」と呼ぶようになり
ナイト・ゲリラによって次々と蘇っていく街路庭園を
いつしか「ゲリラ・ガーデン」と呼ぶようになった。

それがマスコミに知れるようになり、
人々は若者の正体を知るようになった。
若者の名は、トム・シンプソン。

トムの活動にマスコミへの問い合わせが殺到した。
ほどなくしてゲリラ・ガーデンを手伝う人々が集まってきた。
女性が集まり、若者が集まり、大人までもが集まりだし、
そして募金までもが集まり出した。
トムが始めたナイト・ゲリラは活動の範囲を広げ、
やがてボランティア団体へと組織されていった。

先日、わかたけの庭を眺めながら、
4~5年前に見たTV番組を思い出していた。
花もある。残土もある。肥料もある。人もいる。

あとはもう一人のトムがその活動に賛同し、
いつナイト・ゲリラを始めるかだ。
                
                    影 虎


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Posted by やぶれがさ at 14:30│Comments(0)缶集めの日常
 
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